蕃茄の野球考察ブログ

プロ野球を中心に野球に関するトピックについての考えをまとめていきたいと思います。

【“キレ”のある変化球とは】

 直球の“ノビ”同様、“キレ”という言葉も感覚的な側面を残しながら一般的に使われている。キレのある変化球に対しては、打者から“予想以上に変化した”、“手元で変化した”といったようなニュアンスの表現がなされることが多いように感じる。“キレ”という言葉は直球に対して使われる場合もあるが、今回は変化球に対して使われるものとし、それがどういったものかについてまとめと考察を示していく。

 

<“予想以上に変化する”>

 投球に対して打者はこれまでの経験などからその軌道を予測してスイングをかけていく。その投球が予測の軌道を上回る変化量であれば、打者はキレを感じるのではないかと考える。

 投球の変化量を決める因子の一つとして回転数が挙げられる。基本的には純粋なジャイロボールではない限り回転数が多いほど変化量は大きくなると言える。ただし、打者が感じる変化量は回転軸や球速との兼ね合いもあり、更にその投手のファストボール(フォーシーム、ツーシーム等)が基準になる部分もあるため、厳密な表現としての変化量とは異なる点や一概に言えない点もある。これらの点を考慮すると、一般的なホップ成分のあるファストボールを投げる投手であれば、サイドスピン成分の大きい球種やトップスピン成分のある球種においては回転数が多いほどファストボールとの差が大きい軌道となり、打者が感じる変化量は大きくなると言える。

 球速との関係については、遅い球のほうがキャッチャーミットまで届く時間、つまり変化する時間が長くなるため変化量自体は大きくなる。しかし、同様に打者が投球の軌道を認知、予測する時間も長くなるため、変化量が“予想を上回る”かという観点から球速の遅い球は不利に働くと考えられる。

 打者に“予想以上の変化”という面でのキレを感じさせるためには、ある程度の球速を確保した上でファストボールと軌道の離れた変化量が求められると言えそうである。これに当てはまる球種として、サイドスピン量の多いスライダーや外国人投手に使い手の多いトップスピン成分を持ちながら球速も出るナックルカーブ(スパイクカーブ)などが挙げられる。

 

<“手元で変化する”>

 変化球の曲がり始めに対して早い遅いといった表現がされることは多いが、実際には投手がリリースした瞬間から変化は始まっているため、正確には“打者が変化を認識する”ポイントのタイミングのことを表していると言える。最近ではピッチトンネルと言った言葉が使われ、ホームベースから7.2mの地点で各球種が通過する円(トンネル)としており、その円が小さいほど球種の見極めが難しいとされている。

 打者が変化を認識するポイントを遅くする要素として、一つは球速が挙げられる。単純に球速が速いことで変化を認識するポイントは打者寄りとなり、変化を認識してからミートポイントへの到達時間も短くなるため、同じ回転軸、回転数の球であっても球速が速いほうが手元で急激に変化したように感じられると推測される。

 もう一つの要素としては回転軸が挙げられる。回転軸に関しては、変化を認識しづらくするパターンと変化を鋭く見せるパターンとに分けられる。

 前者は、回転軸をファストボールに近づけることで変化を見極めるのが難しくなり、それを認識できるタイミングは遅くなる。その反面、変化量は小さくなるため、これが打者にキレを感じさせるかどうかは一概には言えないと思われる。これに当てはまる球種としてはツーシームやシュート、ホップ成分のあるカットボールやスプリットが挙げられる。

 後者は回転軸のジャイロ成分を増やすことで減速を小さくし、変化を認識してからミートポイントまでの到達時間を相対的に短くすることで、変化を急激に感じさせる効果があると考えられる。また、ジャイロ成分は大きくなるほど変化量自体は小さくなるが、完全に回転軸が進行方向と一致した変化ゼロのジャイロボールであったとしても、ホップ成分とシュート成分のある一般的なファストボールを基準とするならば、そのジャイロボールは僅かにスライドしながら落ちる変化球として成立するため、変化量に対しての懸念が必要ないことがメリットとして考えられる。個人的にはこのジャイロ成分こそが変化球の“キレ”の正体を示す大きな要素であると考えている。これに当てはまる球種としてはスライダー系の球種が一般的であり、投手によってスライダーやカットボール、最近ではその中間のスラッターといった表現がされることもある。また、千賀投手の代名詞である“お化けフォーク”もジャイロ成分を持った球質とされており、挟む系の落ちる変化球においてもフォーカスされる要素の一つとなっている。これらのようなある程度の球速と変化量を保ちやすいジャイロ成分の大きな変化球は近年のトレンドであり、決め球として使う投手が多いように感じる。

 

<他球種との組み合わせ>

 全く同じ性質の変化球であっても、他の球種との兼ね合いによって打者が感じるキレは変わってくると考えられる。例えばその投手の基準となるファストボールのホップ成分が大きければ変化球の落差は大きく感じるだろうし、シュート成分が大きければスライダー方向の変化をより大きく感じるだろうといった推測がされる。また、対戦を重ねることで球質に打者が慣れてくるといった側面が考えられるが、2種類のスライダーなどのように似た性質の球種を扱うことで、軌道の判別を難しくし、よりキレを感じさせる、あるいは慣れづらくさせるといった効果があると予想される。これらのように、ある球種単体の性質だけでなく、他球種との組み合わせにより、相乗効果としてキレを感じさせる要素も大きいと考える。

 

<まとめ>

●変化球の“キレ”とは打者の予想を上回る変化量もしくは急激に変化したと感じるような性質を持つ球に対して使われることが多い。

●基本的には回転数を多くすることで変化量は増加する。

●ジャイロ成分の多い球は減速が少ないため、相対的に打者が変化を認識してからミートポイントまでの到達時間が短く、結果的に急激に変化したように感じやすくなる。

●同じ性質の球でもフォーシームの質や他の球種との組み合わせにより、キレの感じ方は異なる。