蕃茄の野球考察ブログ

プロ野球を中心に野球に関するトピックについての考えをまとめていきたいと思います。

【守備シフト〜極端なシフトはNPBでも一般化されるか〜】

 近年野球界においてもデータの活用が浸透しており、打者の打球傾向などを元に極端な守備シフトを敷く機会がMLBを中心に増加してきている。今回は守備シフトの中でも内野手が一二塁間もしくは二三塁間に3人の野手が守るシフトを以下では“守備シフト”として私見を示していく。(状況に応じた一般的な前進守備やゲッツーシフト、バントシフト等には触れず、打者の特徴に合わせたシフトのみを考察する)

 

<守備シフトの現状>

 MLBにおいて守備シフトを敷く割合は10年シーズンでは1.8%だったが、19年シーズンでは28.3%まで上昇したとされている。NPBでは、MLBと比較しシフトを敷く割合はまだまだ低いが、以前よりは目にする機会が増えており、DeNA日本ハムでは比較的積極的に用いられてきている。

 守備シフトは左打者に対して敷かれる割合が高く、右打者と比較し打率を下げる効果も高いという分析結果が示されている。打席の左右でシフトを敷かれる割合が異なる理由は大きく分けて二つ考えられる。一つは右打者の場合、三塁方向に内野手を寄せる際でも一塁手はベースカバーをする必要があり、極端に守備位置を変えることはできないため、その割合が低くなっていると考えられる。もう一つは、左打者のほうがプルヒッターの傾向の強い打者が多いことも推測され、シフトの割合を増やしていると考えられる。

 左打者がプルヒッターになりやすい要因としては、脚が速く内野安打も狙っていくような打者でない場合、反対方向(左方向)へのゴロを狙う必要がないことが挙げられる。右打者は進塁打で右方向へのゴロを最低限の仕事として求められる場面があるが、左打者は引っ張ったゴロが進塁打となるため、あえて反対方向のゴロを狙い打つ機会が少なく、結果的にプルヒッターの傾向が強くなりやすいのではないかと考える。また、投手へ対応していく中で、その傾向に右打者、左打者で差が出る可能性も推測する。対戦する投手は必然的に右投手が多く、対応する変化球もトップレベルに行き着くまでは少なくともスライダーやカーブのような利き手と逆方向に曲がる球種が多いと思われる。そのため、右打者は外に逃げていく球、左打者は内に入ってくる球に対応することが多くなる。個人的な推測であるが、これが左打者が右打者よりプルヒッターになりやすく(その傾向が強く)なる一因ではないかと考える。

 

 

<守備シフトの効果>

相手打者の打率への影響

 米国のある分析家によるとシフトによって下がる打率は3厘程度とも言われているようだ。プルヒッターの左打者に対してはシフトを敷かない場合と比較し、打率を下げるという一定の効果が得られているが、右打者ではその効果があると言える結果は得られていない。また、打率は三振やフライアウトといったゴロ以外の要素による影響も大きいため、現状守備シフトが明らかに相手打者の打率を下げる効果の高い作戦とは言いにくいだろう。ただ、データを元に打球が飛ぶ確率のより高い位置にポジショニングをとることは合理的であり、個人的には十分意味のある作戦であると捉えている。

 

相手打者の調子を崩す

 ゴロの打球をより高い確率でアウトにする効果以外に、打者がシフトを意識し空いたスペースを狙って打つことで、短期的には相手の出塁を許す形になるかもしれないが、その打者本来の打撃スタイルや調子を崩すきっかけになる効果も考えられる。MLBの打者はシフトと反対方向に狙い打ったり、セーフティーバントで出塁する場面も稀に見受けられるが、基本的にはシフトを敷かれても自身の打撃スタイルを崩さず投手と対戦している印象がある。これは長いシーズンを見据えてという面が大いにあると推測され、短期決戦などでは打者の対応も変わってくると考えられる。

 

<守備シフト導入に求められること>

チーム内での意思統一

 守備シフトをチームで採用するには、当然内野手だけでなくバッテリー、外野手も含め選手、首脳陣がその作戦に理解を示し、意思統一する必要がある。シフトは本来ヒットになるような打球を捌けるというメリットもあるが、定位置なら難なくアウトにできていたであろう打球がヒットになってしまうリスクもある。十分意思統一できていなければ投手をはじめ不満を持つ選手が出てきてしまい、数字で表せない面でのマイナス要素を生んでしまうかもしれない。

 

内野手の守備力

 守備シフトを大きく動かすことで、内野それぞれのポジションに求められる能力が増えることが考えられる。特に、二塁手三塁手は顕著である。二塁手は左方向に寄ることで一塁までの送球距離が延びるため、これまで以上に送球の強さや精度が求められるだろうし、三塁手も本来の遊撃手の定位置付近を守ることで、左右や後方へのフットワークが求められると考えられる。一塁手は他の3人の内野手が左方向に寄っている場合は打球処理に動く範囲が広がり、投手との連携の難易度も上がることが想定される。遊撃手も深い三遊間からの送球や二塁手の定位置前のような角度が急な位置からのランニングスロー、ショートスローが必要となる場面が想定される。

 このように、守備シフトを採用するには二塁手三塁手も遊撃手の位置で守備練習を行うなど各ポジションの選手が相応の準備を行い、シフトに対応できる守備力を身に付ける必要があると考える。

 

NPBで守備シフトは一般化されるか>

打者の傾向

 守備シフトを積極的に取り入れていくにあたって、それが適応となる打者がどの程度いるかという点は重要な要素となる。NPBの打者がMLBの打者と比較し、プルヒッターの割合が高いか低いかという点については、印象としてやや低いのではないかと予想する。その理由として、右打者に関しては打席で進塁打を意識する場面やポイントを手元に置いて三振を回避しようとする場面が日本の野球界では多いと推測されるためである。また、左打者に関しては脚力を活かして内野安打を視野に入れるタイプの打者が多いと推測される。これらの要因によって、NPBの打者はMLBの打者と比較しプルヒッターは少ないと考えられるが、NPBにおいても、守備シフトが適応となる機会は現状採用している数よりは多いと考えられ、MLB程ではないにしろ今後増えていくのではないかと予想する。

 

価値観、考え方

 データ上守備シフトが適応であるという結果が出たとしても、それを採用するかどうかはチーム全体や選手個人の価値観、考え方に左右される部分が大きいと推測される。定位置であればアウトにできる打球を確実に捌いてほしい投手や捕手、極端に守備位置を変えることを嫌がる内野手は確実に存在すると予想され、個人的にはその割合が日本の野球界で高いのではないかと考える。先述のように守備シフトを採用するにあたってはチーム内での意思統一が重要であるため、打率を下げるメリットが僅かであれば、心理的な面を含めて採用しないという選択をすることも多いのではないかと予想する。

 

<まとめ>

●守備シフトが敷かれる割合はMLBをはじめ増加してきており、NPBでも一部導入され始めている。

●守備シフトにより相手打者の打率を下げる効果は僅かと分析されており、実際にその影響は限定的なものであると言えそうである。

●守備シフトを導入するにあたっては、チーム内での意思統一や内野手にこれまで以上の守備力が求められる。

NPBで守備シフトが一般化されるかという点についてはMLBより限定的になると考えられるが、現在よりその数は増加すると予想する。