蕃茄の野球考察ブログ

プロ野球を中心に野球に関するトピックについての考えをまとめていきたいと思います。

【2021阪神タイガース〜開幕オーダー、一軍メンバー予想と展望〜】

 2021年プロ野球ペナントレースの開幕が目前となった。今シーズンの阪神タイガースはここまでオープン戦で投打ともに好成績を残し、シーズンでも期待できる戦力の充実ぶりを示している。ここまでの成績や起用法、各方面からの情報などから開幕オーダーと一軍メンバーを予想し、各選手への期待や展望をまとめていく。

 

<開幕オーダー>

1 中 近本 △ 

2 ニ 糸原 △ 

3 一 マルテ 

4 三 大山

5 左 サンズ 

6 右 佐藤輝 △

7 捕 梅野 

8 遊 木浪 △

9 投 藤浪

※△:左打

 

近本光司

不動のリードオフマン。俊足に加えパンチ力も兼ね備える。打率3割、二桁本塁打、3年連続盗塁王を十分期待できる。脚力を生かした中堅守備もハイレベル。

 

糸原健斗

打線の仕事人。粘り強さと選球眼の良さから高出塁率を期待でき、打撃面で同ポジションのライバルと一線を画す。状況に応じた打撃と堅実な二塁守備でフルシーズン戦う。

 

J.マルテ

入団3年目となる強打の助っ人。選球眼も非常に良く、長打と出塁の両方を期待できる。昨年は度重なる故障に泣いたが、今シーズンは万全の状態で中軸を担う。

 

大山悠輔

昨年遂に本格化した主砲。今シーズンもタイトル争いに絡むような打撃ができれば必然的にチームの得点力は上がるはず。強肩と広い守備範囲を持つ三塁守備でもプラスを生み出す。

 

J.サンズ

広角に長打を放つクラッチヒッター。好調時は手が付けられない活躍をしたが、終盤は不調に陥った。今シーズンは好不調の波を小さくしたい。守備では両翼に加え、一塁守備にも就く。

 

佐藤輝明

超大物ドラ1ルーキー。オープン戦6本塁打など桁違いのスケールを見せている。今後は様々な壁が立ちはだかると予想されるが、小さくまとまらず球界を代表する打者を目指してほしい。

 

梅野隆太郎

走攻守で高いレベルを誇る正捕手。守備面でのブロッキングスローイングは球界最高レベルだろう。坂本、原口らもいる中、より多くの試合でマスクを被り攻守でチームを牽引する。

 

木浪聖也

昨年守備面での向上が光った遊撃手。チームの課題かつライバルが多い激戦区のポジションであるが、守備力とシュアな打撃で結果を残し、レギュラーの座を確固たるものにする。

 

<ベンチ入り野手>

●捕手

坂本誠志郎

話題となったフレーミング技術をはじめリード面など高い守備力を持つ捕手。意外性のある打撃やキャプテンシーも魅力。正捕手梅野とは違う面で存在感を示していく。

 

原口文仁

勝負強さと長打力を兼ね備えた打撃が売りの捕手。右の代打としても捕手としても頼れる貴重な戦力。投手の良さを引き出すリードとここ一番での打撃で存在感を発揮する。

 

内野手

陽川尚将

昨年結果を残したパンチ力が売りの右打者。右の代打としてだけでなく、外野と一塁を一定の水準で守れる守備力も強みとなる。長いシーズンの中ではスタメンの座も狙っていく。

 

山本泰寛

トレードで加入したUT内野手。ここまで洗練された遊撃守備でアピールしてきている。スタメンを狙うためには、貴重な右の二遊間選手として対左投手の打撃などでもアピールしていく。

 

植田海

俊足が武器の代走の切り札。レギュラーを狙うには打撃が課題。守備面では本職の二遊間に加え、近年は外野にも取り組んでいる。まずは盗塁、走塁の技術と判断力の向上で信頼を得る。

 

中野拓夢

三拍子揃った即戦力ドラ6ルーキー。機敏な二遊間の守備と脚力、シュアな打撃で1年目から一軍戦力として戦う。木浪、糸原からポジションを奪う勢いでアピールを続ける。

 

※□:両打

 

●外野手

糸井嘉男

高い打撃力は健在のベテラン選手。今シーズンは左翼守備にも挑戦し、レギュラーの座を狙う。一方で代打の切り札として重要な場面での一打を放つ役割も期待される。

 

江越大賀

外野守備と走塁のスペシャリスト。終盤の代走、守備固めとしては申し分ない。一発のある打撃にも魅力はあるが、コンタクト能力が大きな課題。改善されればレギュラーも狙える。

 

板山祐太郎

髙山同様新フォームで二軍キャンプからアピールを続ける左打者。スローイングに定評のある外野守備に加え、二塁や一塁を中心に内野もこなすUT性でも戦力になる。

 

<先発ローテーション>

藤浪→青柳→ガンケル→西勇→伊藤将△→秋山

※△:左投

 

藤浪晋太郎

復活の兆しを見せる剛腕。昨年はリリーフから本来の姿を取り戻すきっかけを掴んだ。先発として勝負する今シーズンは開幕投手に任命された。自身にもチームにも弾みをつけたい。

 

青柳晃洋

新球種シンカーを習得し、ツーシームなどとのコンビネーションで課題の対左打者を攻略する。持ち味のゴロアウトを量産する投球を継続できれば、二桁勝利は難なく可能だろう。

 

J.ガンケル

先発、リリーフ両方をこなす長身右腕。スリークォータースローから小さくボールを動かす投球が持ち味。日本野球に慣れた2年目の今シーズンは先発ローテーションで試合を作る。

 

西勇輝

制球抜群、安定感抜群の虎のエース。喘息による調整遅れも心配されたが開幕ローテーション入りは問題なさそう。裏ローテの先頭として、対戦が多くなる王者巨人打線を封じ込める。

 

伊藤将司

完成度の高い即戦力ドラ2左腕。出どころの見づらいフォームからノビのある直球と多彩な変化球を組み合わせる。貴重な先発左腕としてルーキーイヤーから先発ローテーションを守る。

 

秋山拓巳

昨年2度目の二桁勝利を挙げた抜群の制球力が売りの大型右腕。球速以上の威力を持つ直球を軸に投球を組み立てる。高校時代に「伊予ゴジラ」の異名を付けられた打撃にも注目。

 

<リリーフ>

R.スアレス

残留を決断した剛腕守護神。160㎞/hにも達する速球をコンスタントにストライクゾーンに投げ込み相手打者を制圧する。多彩な変化球を操る器用さも持ち合わせる。

 

岩崎優

下半身と体幹の柔軟性と強さを活かした球持ちの良いフォームから、吹き上がるような独特の軌道の直球を投じるセットアッパー。今シーズンも淡々と自分の投球で役割を全うする。

 

岩貞祐太

昨年途中からリリーフに転向し、新しい活躍の場を得た。イニング跨ぎを厭わないタフさとピンチの場面からでも問題なく投げられる技術とメンタルの強さで信頼される存在になる。

 

石井大智

高専独立リーグと異色の経歴を持つドラ8右腕。ノビのある直球と決め球シンカーが持ち味。キャンプ、オープン戦でのアピール通り勝ちパターンの一角を担う活躍を期待。

 

桑原謙太朗

ここまで復活した姿を見せるベテランリリーバー。独特の軌道の真っスラとキレのあるスライダーは相手打者にとって厄介。コンディションに注意しながら1年間戦う。

 

小林慶祐

昨年トレードで加入した長身右腕。角度のある直球とフォークボールのコンビネーションで高い奪三振能力が期待できる。一軍のリリーフ陣の中で自分のポジションを確立する。

 

加治屋蓮

王者ソフトバンクから加入した長身リリーバー。年間72試合登板した実績を持つ。右肩の故障も癒え、心機一転新しいチームで経験を生かしながら終盤の厳しい場面で腕を振る。

 

小野泰己

先発ローテーションで7勝を挙げたこともある期待の大型右腕。ここ2年は故障や制球難に苦しんだ印象。持ち味の低めに吸い込まれるような直球と決め球の精度を高めて活躍する。

 

<まとめ

 一軍登録31名(投手14名、野手17名)と開幕オーダーを予想した。ここに名前を挙げていない中にも期待の大きい選手は数多く、遂に優勝を狙う陣容が整った印象。16年ぶりのリーグ制覇、悲願の日本一を期待。

【リリーフ投手の役割〜現代野球の登板過多問題〜】

 現代野球において、投手の役割分担は明確になってきており、それに伴ってリリーフ投手の重要性が強く認識され、立場や価値の向上にも繋がっている。その反面、首脳陣の信頼度が高い優秀なリリーフ投手は登板過多となる傾向にあり、故障などにより投手として短命に終わってしまうケースも少なくなく、起用法をはじめ問題視される機会も増加しているように感じる。NPBでは1試合平均でのリリーフ投手の起用数は2018年から3を超えてきている。データを元にした球数制限など故障リスクを考慮した投手起用は、現在の野球界においてプロ、アマ問わず課題となっており、リリーフ投手の登板数に関する検討もその一つであると言える。

 今回は、現在の主なリリーフ投手の役割と私自身が考えるリリーフ投手の新しい役割に関する提言を示していく。

 

<リリーフ投手の主なポジション>

クローザー

 セーブ機会(最終回3点差以内でのリード時)や最終回以降の同点の場面で登板する投手。文字通り試合を締めくくる役割であり、リリーフ陣の中で最も格が高いポジションとも言える。

 

セットアッパー

 主に7、8回に登板し、クローザーに繋ぐ役割を担う。僅差でのリード時や同点時を中心に僅差でのビハインド時も含め、接戦時に登板する中継ぎエース。最近ではリリーフ陣の中で2名がこのポジションに配置されることが多く、クローザーの投手と合わせて“勝利の方程式”と呼ばれるように、非常に重要視されている役割である。

 

ミドルリリーバー

 試合中盤の接戦時にセットアッパーの前に登板したり、セットアッパーやクローザーが登板しないリード時やビハインド時に登板したりと様々な場面で起用される。イニング途中での登板やイニング跨ぎが求められることも多いリリーフ陣の中の便利屋的ポジション。

 

ワンポイントリリーバー

 対左打者や対右打者、〇〇キラーなど特定の打者を抑えるためにスポットで登板する投手。左投手やサイドスローなどの変則フォームの投手が担うことが多い。

 

ロングリリーバー

 先発投手がアクシデントや危険球、打ち込まれて炎上などで予定より早く降板した際に試合を作り直したりイニングを消化したりする役割の投手。イニング跨ぎを厭わないリリーフ投手だけでなく先発ローテーション候補の投手が務める場合も多い。ビハインド時や点差が離れた状況での登板も多い傾向にある。

 

 リリーフ投手は主に上記のような役割に分けられ、6〜8名がブルペン待機する形をとることが多い。首脳陣の信頼度や役割の面からセットアッパーやミドルリリーバーの投手が登板過多になりやすい傾向にあると言える。優秀なリリーフ投手の負担を軽減するためには、起用法に関する再考が必要になると考えられる。

 

<複数イニング投げるセットアッパー>

 プロ野球界において、チーム内で実力や信頼度の高い投手は、長いイニングを投げる先発投手もしくは終盤の重要な場面で1イニングを任されるクローザーやセットアッパーを務めることが多い。一方で、イニング跨ぎを厭わない勝ちパターンのリリーフ投手や一級品の球を持ちながら中盤以降の投球に課題を残す先発投手なども少なからず存在する。このことから、現在の先発、勝ちパターンのリリーフといった役割にとらわれない、力のある投手の生かし方もあるのではないかとと考える。例えば、接戦時の中盤から終盤にかけて2イニング前後を投げることを持ち味とした“複数イニングを投げるセットアッパー”という役割でチームの顔になるような投手が出てきてもおもしろいのではないかと個人的には考えている。

 実際に、贔屓球団の阪神タイガースではここ数年それに近いようなリリーフ投手の起用が何度か見られた。2020年はシーズン途中に先発からリリーフに転向した岩貞投手やガンケル投手が、2019年は終盤にガルシア投手が接戦時でもイニング跨ぎのリリーフで活躍する場面があった。このことから、先発からリリーフに転向した投手がこういった役割に適性を示す可能性は十分にあると考えられる。年間を通してこのような役割を担うことで、30〜40試合の登板で70〜80イニング消化する活躍も期待できると想定される。

 

予想される効果

 まず一つは、タイトルにもあるリリーフ投手の登板過多の軽減や年間通しての球数を減らすことが期待できると考えられる。複数イニング投げるリリーフ投手の存在により、1試合に登板する投手の数を減らすことができ、その結果リリーフ陣トータルでのブルペンで準備する球数を減らす効果も得られると予想される。年間で消化するイニング数についても、個人的には60試合で60イニングより30試合で60イニングのほうがその投手にとっての負担も少ないと考えており、単純に年間の消化イニングが増えることで他の投手の負担を減らせると予想される。

 もう一つは、短期決戦の戦い方の選択肢を広げることが期待できる。短期決戦では、負けられない試合が続くため、先発投手を早めに降板させ、継投策で繋ぐ展開になることが多いように感じる。しかし、同時にリリーフ陣においてもその時点での調子や経験値などを考慮して登板する投手を選択していくため、ペナントレース時より限られた投手に起用が偏る面もあると感じる。このような点からも複数イニングを信頼して任せられるリリーフ投手は重宝されるのではないかと考える。

 

予想される課題

 課題の一つは、イニングを跨ぐことでその投手の失点する確率が上がってしまうリスクが挙げられる。1イニングの登板と比較し、球数が増えることや味方の攻撃をベンチで待つといった要素も加わることが懸念材料になると予想される。そのため、このようなリスクを考慮しながら適性を見極める必要が出てくると考えられる。他に想定される懸念材料として相手打線の慣れという点が挙げられるが、ある程度抑えられた場合2イニングまでであれば相手打線は一巡で収まることが多いため、それほど影響しないのではないかと考える。

 DH制のないセ・リーグに限った課題として、終盤の1点を争う攻撃でその投手に打席が回る可能性が挙げられる。そのため、攻撃面の采配も考慮しながら、登板する場面を決めることになる難しさがあると考えられる。

 他には、ホールド、セーブといった記録の面とそれに伴った評価の面で納得が得られない可能性が十分にあると考えられる。リリーフ投手に与えられる記録であるホールドやセーブは1試合で1つしか記録されないため、イニングを跨ぐことはそういった記録を積み上げるにはマイナスに働くと言える。また、他の投手が記録できるチャンスを奪ってしまうという捉え方もできてしまう。そのため、評価方法をはじめチーム内での意思統一が十分でなければ新しい役割を導入することは難しいと考えられる。

 

<まとめ>

●投手の役割分担が進んでいる現代野球において、リリーフ投手の重要性は向上している。

 

●リリーフ陣の中でセットアッパーやミドルリリーバーの投手は登板過多になりやすい傾向にある。

 

●チームを代表する信頼度の高い投手は長いイニングを投げるローテーション投手か1イニングを投げるクローザーやセットアッパーを務めることが多い。

 

●登板過多を抑える新しいポジションとして、複数イニングを投げるセットアッパーのような役割の投手が出てきてもおもしろいが、課題も多く想定される。

【“キレ”のある変化球とは】

 直球の“ノビ”同様、“キレ”という言葉も感覚的な側面を残しながら一般的に使われている。キレのある変化球に対しては、打者から“予想以上に変化した”、“手元で変化した”といったようなニュアンスの表現がなされることが多いように感じる。“キレ”という言葉は直球に対して使われる場合もあるが、今回は変化球に対して使われるものとし、それがどういったものかについてまとめと考察を示していく。

 

<“予想以上に変化する”>

 投球に対して打者はこれまでの経験などからその軌道を予測してスイングをかけていく。その投球が予測の軌道を上回る変化量であれば、打者はキレを感じるのではないかと考える。

 投球の変化量を決める因子の一つとして回転数が挙げられる。基本的には純粋なジャイロボールではない限り回転数が多いほど変化量は大きくなると言える。ただし、打者が感じる変化量は回転軸や球速との兼ね合いもあり、更にその投手のファストボール(フォーシーム、ツーシーム等)が基準になる部分もあるため、厳密な表現としての変化量とは異なる点や一概に言えない点もある。これらの点を考慮すると、一般的なホップ成分のあるファストボールを投げる投手であれば、サイドスピン成分の大きい球種やトップスピン成分のある球種においては回転数が多いほどファストボールとの差が大きい軌道となり、打者が感じる変化量は大きくなると言える。

 球速との関係については、遅い球のほうがキャッチャーミットまで届く時間、つまり変化する時間が長くなるため変化量自体は大きくなる。しかし、同様に打者が投球の軌道を認知、予測する時間も長くなるため、変化量が“予想を上回る”かという観点から球速の遅い球は不利に働くと考えられる。

 打者に“予想以上の変化”という面でのキレを感じさせるためには、ある程度の球速を確保した上でファストボールと軌道の離れた変化量が求められると言えそうである。これに当てはまる球種として、サイドスピン量の多いスライダーや外国人投手に使い手の多いトップスピン成分を持ちながら球速も出るナックルカーブ(スパイクカーブ)などが挙げられる。

 

<“手元で変化する”>

 変化球の曲がり始めに対して早い遅いといった表現がされることは多いが、実際には投手がリリースした瞬間から変化は始まっているため、正確には“打者が変化を認識する”ポイントのタイミングのことを表していると言える。最近ではピッチトンネルと言った言葉が使われ、ホームベースから7.2mの地点で各球種が通過する円(トンネル)としており、その円が小さいほど球種の見極めが難しいとされている。

 打者が変化を認識するポイントを遅くする要素として、一つは球速が挙げられる。単純に球速が速いことで変化を認識するポイントは打者寄りとなり、変化を認識してからミートポイントへの到達時間も短くなるため、同じ回転軸、回転数の球であっても球速が速いほうが手元で急激に変化したように感じられると推測される。

 もう一つの要素としては回転軸が挙げられる。回転軸に関しては、変化を認識しづらくするパターンと変化を鋭く見せるパターンとに分けられる。

 前者は、回転軸をファストボールに近づけることで変化を見極めるのが難しくなり、それを認識できるタイミングは遅くなる。その反面、変化量は小さくなるため、これが打者にキレを感じさせるかどうかは一概には言えないと思われる。これに当てはまる球種としてはツーシームやシュート、ホップ成分のあるカットボールやスプリットが挙げられる。

 後者は回転軸のジャイロ成分を増やすことで減速を小さくし、変化を認識してからミートポイントまでの到達時間を相対的に短くすることで、変化を急激に感じさせる効果があると考えられる。また、ジャイロ成分は大きくなるほど変化量自体は小さくなるが、完全に回転軸が進行方向と一致した変化ゼロのジャイロボールであったとしても、ホップ成分とシュート成分のある一般的なファストボールを基準とするならば、そのジャイロボールは僅かにスライドしながら落ちる変化球として成立するため、変化量に対しての懸念が必要ないことがメリットとして考えられる。個人的にはこのジャイロ成分こそが変化球の“キレ”の正体を示す大きな要素であると考えている。これに当てはまる球種としてはスライダー系の球種が一般的であり、投手によってスライダーやカットボール、最近ではその中間のスラッターといった表現がされることもある。また、千賀投手の代名詞である“お化けフォーク”もジャイロ成分を持った球質とされており、挟む系の落ちる変化球においてもフォーカスされる要素の一つとなっている。これらのようなある程度の球速と変化量を保ちやすいジャイロ成分の大きな変化球は近年のトレンドであり、決め球として使う投手が多いように感じる。

 

<他球種との組み合わせ>

 全く同じ性質の変化球であっても、他の球種との兼ね合いによって打者が感じるキレは変わってくると考えられる。例えばその投手の基準となるファストボールのホップ成分が大きければ変化球の落差は大きく感じるだろうし、シュート成分が大きければスライダー方向の変化をより大きく感じるだろうといった推測がされる。また、対戦を重ねることで球質に打者が慣れてくるといった側面が考えられるが、2種類のスライダーなどのように似た性質の球種を扱うことで、軌道の判別を難しくし、よりキレを感じさせる、あるいは慣れづらくさせるといった効果があると予想される。これらのように、ある球種単体の性質だけでなく、他球種との組み合わせにより、相乗効果としてキレを感じさせる要素も大きいと考える。

 

<まとめ>

●変化球の“キレ”とは打者の予想を上回る変化量もしくは急激に変化したと感じるような性質を持つ球に対して使われることが多い。

●基本的には回転数を多くすることで変化量は増加する。

●ジャイロ成分の多い球は減速が少ないため、相対的に打者が変化を認識してからミートポイントまでの到達時間が短く、結果的に急激に変化したように感じやすくなる。

●同じ性質の球でもフォーシームの質や他の球種との組み合わせにより、キレの感じ方は異なる。

【2020年ドラフト注目選手】

 今回は2021年シーズンにルーキーイヤーを迎える、2020年ドラフトで支配下選手として指名された選手のうち、注目度の高いドラフト1位指名選手を除いた、個人的に活躍を期待している選手5名をピックアップする。

 

牧秀悟

横浜DeNAベイスターズ 2位 中央大

内野手 右投右打

 

 大学日本代表の4番打者。右の強打者でありながら二遊間のポジション(主に二塁手)を本職とする点に希少価値があり、ドラフトでは1位で単独入札もしくは外れ1位で競合するのではないかと予想していたため、2位のこの位置まで残っていたことは意外であった。個人的には贔屓球団の阪神タイガースにもぜひ指名してほしいと思っていた。

 最大の売りは、打撃であり、二遊間の選手としては珍しいほどのしっかりした体格から放たれる強打に高い対応力を兼ね備えている。現状では、長距離ヒッターというより広角に左中間、右中間を割るような打球を持ち味とする中距離ヒッターという印象であり、大学生の中では非常に穴の少ない完成度の高い打者のように感じる。守備面では、肩の強さを活かしたスローイングは持ち味と言えそうであり、動画で見る限りでのフットワークやグラブ捌きも軽快に見える。走力も一定水準を満たしているレベルと思われることから、プロの世界でも二塁手として勝負できるのではないかと思う。

 球団は二遊間のレギュラーが決まっていない状況でありチャンスは多いと考えられるが、伊藤裕季也選手をはじめ知野選手ら打撃を売りにした右打ちの内野手と比較されることが予想され、その中で持ち味を発揮していくことが求められるだろう。

 将来的には楽天イーグルスの浅村選手のような打線の中軸を担う二塁手になってもらいたい。

 

山野太一

ヤクルトスワローズ 2位 東北福祉大

投手 左投左打

 

 仙台六大学野球リーグで22勝無敗、公式戦70イニング連続無失点など東北で無双した左腕。

 小柄ながら身体全体のしなりを上手く使ったスリークォーターの投球フォームが持ち味であり、映像を見た印象では投げる腕の弧が大きく、身長に比して腕が長い投手のように感じた。投球スタイルは、MAX150km/h(平均140km/h前後か)の直球にカット、スライダー、カーブ、チェンジアップ、ワンシームと一通りの変化球を交える本格派であると思われる。

 球団の左腕には“小さな大投手”のベテラン石川投手、かつて甲子園で投げ合った寺島投手がおり、多くのことを吸収しながら切磋琢磨し合える環境と言える。その中で、即戦力左腕としてあわよくばルーキーイヤーから先発ローテーションに入るような活躍を期待したい。

 

牧原巧汰

福岡ソフトバンクホークス 3位 日大藤沢

捕手 右投左打

 

 世代トップクラスの打てる捕手。左打席から広角に長打を放つ捕手という点で、西武ライオンズ森友哉選手を彷彿とさせる。強肩も売りで、二塁送球1.8秒台は十分プロで戦えるレベルである。

 将来像は打てる捕手として森選手のようになることが理想的であると思うが、攻守の成長曲線やチーム事情によっては打撃を活かし、栗原選手のような形でブレイクするのも想像できる。選手層の厚いチームで勝負することになるが、持ち味を失わず攻守の要となる選手になってもらいたい。

 

山村崇嘉

埼玉西武ライオンズ 3位 東海大相模

内野手 右投左打

 

 名門で1年秋から中軸を担った好打者。この年の高校生打者では個人的に最も期待している打者である。高校通算49本塁打の長打力もさることながら、バットのヘッドを効かした柔らかい打撃は高校生離れした高いレベルのように感じる。

 守備面では2年生まで一塁手を本職とし、投手としてもマウントに上がる二刀流であったが、最終学年ではドラフトを意識してか三塁手、遊撃手へコンバートされた。三塁手、遊撃手としては期間が短く何とも言えない部分があるが、投手として144km/hをマークした肩の強さは野手としても売りにできると考えられる。プロでどのポジションを本職とするか未知数であるが、一塁手を本職として守ってきたことは持ち味の一つにできると考える。一塁手は助っ人外国人選手が任されることも多く、レギュラーを取るハードルは高くなる傾向があるが、同時に代走や守備固めが必要となる場合も多いため、一塁手を難なくこなせることは出場機会を得る武器になると考えられる。

 将来的には同じチームの外崎選手やスパンジェンバーグ選手のように複数ポジションをこなせるレギュラーとして、打線に欠かせない選手になってほしい。

 

村上頌樹

阪神タイガース 5位 東洋大

投手 右投左打

 

 高校ではセンバツ優勝投手、大学でも着実に実績を積み上げてきた。ドラフト前に前腕の肉離れというケガの影響もあり、この順位での指名となったが、本来は上位指名が有力な実力であると言われている。個人的に最も注目していた大学生投手であったが、贔屓球団の阪神タイガースはドラフトで指名する投手の身長が180cm以上の場合がほとんどであり、正直縁がないと思っていたため、この指名は非常に嬉しく感じた。

 この投手の売りは制球力や緩急を使ったゲームメイク能力とホップ成分の大きいノビのある直球である。スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップなどそれぞれの球種の精度も高いレベルであるが、MAX149km/h(平均140km/h前後か)の直球は回転数の多さ、回転軸の傾きの少なさから引退した藤川球児元投手レベルとも言われている。

 これまでの実績や投球スタイルから先発投手としてゲームメイクする役割が適していると考えられるが、初めは直球の質を活かして短いイニングで勝負するのもありだと考える。一軍のリリーフやファームでの先発を経験しながら平均球速の向上や決め球となる変化球の精度向上を図り、スケールアップした段階で先発ローテーションに入るといった起用法も可能であると考える。

 近本選手と同郷の地元淡路島出身の選手として、数年後には安定して二桁勝利できる先発投手になり、チームの顔になってくれることを期待したい。

【“ノビ”のある直球とは】

 投手が投げる直球に対して、“ノビ”という表現は以前から一般的に使われている。ノビのある直球とは、想定している直球の軌道より“浮き上がって見える”ため、打者がボールの下を振ってしまったり、差し込まれたりする傾向にあるとされている。これは対戦する打者や受ける捕手、周囲から見る人の印象によるところが大きく、感覚的な面が強い表現であったように感じる。しかし、物理学的な研究や近年の球質を分析する環境の進化から、直球のノビがどういうものか明らかになってきた。今回は、揚力をより大きく受け、沈みにくいボールを“ノビのある直球”と定義し、これについて流通している情報を元に自分なりにまとめ、それについての考えも示していく。

 

<直球のノビを決める要素>

回転数

 ホップ(バックスピン)成分がある直球であれば、回転数が多いほどより強い揚力を受けるため、ノビがあると言える。

 

回転軸

 オーバースローやスリークウォータースローの投手の場合、直球の回転軸は、バックスピンにシュート成分(水平成分の傾き)やジャイロ成分(進行方向への傾き)が加わっていることがほとんどである。水平成分の傾きや進行方向への傾きが少ないほど、垂直に揚力を受けられ、より重力に逆らう力が働くためノビがある直球となる。また、水平成分の傾きが大きいほど横方向への変化が大きくなり、進行方向への傾きが大きいほど上方向への変化(ホップ成分)や横方向への変化を抑える。

 回転軸が完全に進行方向を向いたボールがいわゆるジャイロボールであり、回転による上下左右方向への変化はなく、重力による影響のみを受ける。また、進行方向と反対向きに働く空気抵抗が小さくなるため、減速が少ない(初速と終速の差が小さい)球となる。ノビのある直球に対して初速と終速の差が小さいと評するものがあるが、揚力を大きく受けることは空気抵抗も大きくするため、実際は減速の幅が大きく、初速と終速の差は大きいと言える。

 

縫い目

 縫い目によるノビの影響は回転数、回転軸と比較すると僅かなものであるとされているが、縫い目の空気抵抗を考慮すると、フォーシームはツーシームより1回転あたりに通過する縫い目のラインが多くなるため、より大きく揚力を受けると考えられる。

 

<球質と投球フォーム>

回転数と投球フォーム

 直球の回転数はリリース時に指先からボールに伝える力、球速にある程度比例して増加すると考えられる。そのため、単純により出力の高い投球フォームで球速を上げることが回転数を増やす方法と言える。また、同じ球速でも回転数が異なるのは、リリース時のボールに加わる力の向きの違いによるものであると推測する。リリース時には大まかに分けて、前方に押し出す力と上から下に叩くような力が組み合わさっている。その中で上から下に叩く(切る)力がボールの回転を生み出すため、その割合が大きいほど回転数は増加すると考えられる。そのような投球フォームというのは、前腕が加速するタイミングで支点となる肘のリリース時の位置が必然的に高くなるのではないかと推測する。投球の終着点は凡そ同じであるため、支点となる位置が高いほど、上から押さえ込む力の割合が大きくなり、回転数が増加すると考える。

 

回転軸と投球フォーム

 回転軸に関わる投球フォームの大きな要素としてアームアングルが挙げられ、主に脊柱の傾きと肩甲帯、肩関節の動きによって投球側の上肢の大まかな軌道が決まる。この軌道が地面と垂直に近いほどボールの水平成分の傾きが小さく、平行に近いほど傾き(シュート成分)が大きくなると考えられる。

 その他の回転軸に関わる要素としては、リリース時の投球側の上肢について、肩関節の内外旋角度、肘関節の屈曲角度は投球フォームが異なってもあまり差がないと推測する。前腕の回内外角度が回外位になるほど小指側が捕手方向を向くため進行方向への傾きが大きく(スライダー寄り)なりやすく、手関節の尺屈角度が大きくなるほどいわゆる手首が寝た状態になり、シュート成分が多くなると考えられる。また、リリース時の指先について、「ドラフト候補調査隊」さんのYouTubeの映像によると最後までボールに残っている指が中指の投手はジャイロ成分が少なく、人差し指の投手はジャイロ成分が多い傾向にあると分析されている。これは先述の前腕の回外角度とも関係している可能性があると考える。

 

球質と体格、身体的特徴

 仮に全く同じ投球フォームであれば身長が高い投手のほうが並進運動の量、回転運動の半径が大きくなるため、より球速が速く、回転数も多くなると推測される。また、同じ身長でも手足が長い投手のほうが同様の影響があると考えられる。利き手の指の長さについては、人差し指と中指の長さの差が大きいと人差し指と中指の同時リリースが難しく、シュート成分やジャイロ成分が多い球質になりやすいと予想する。

 

サイドスローアンダースローの直球>

 サイドスローアンダースローの投手はアームアングルから必然的にホップ成分が少なくシュート成分が多い直球となる。また、個人差はあるだろうが、リリース時にボールの下を切るようにリリースするため人差し指が残るタイプのリリースになり、ジャイロ成分も多くなる。アンダースローでは回転軸が進行方向を向いたジャイロボールにかなり近い直球を投げる投手もいる。

 

<ノビのある直球は有効か>

 これまでに示してきたようなノビのある直球が有効かどうかについては、相手打者の予想の軌道を上回るホップ量であれば、必然的に空振りを奪ったりポップフライで打ち取る確率が高くなると言えるだろう。また、沈む変化球との対比という点ではノビのある直球のほうが相乗効果を生みやすいと考えられる。しかし、ホップ成分の多い直球は打球にもバックスピンがかかりやすく、捉えられた場合はより飛距離が出やすい球質であるとも言える。また、球質は平均から離れるほど打者の予想と異なる軌道となり、捉えにくいとされている。そのため、元々ホップ量の少ない直球が武器のグラウンドボーラーのような場合、ホップ量が増加し平均的な球質に近づいてしまうことで打者にとっては対応しやすくなるということも考えられる。これらのことから、直球のノビとは球質を決める1つの要素であり、ホップ成分を増やすことが有効な場合もあるが一概には言えないという結論になる。

 

<まとめ>

●ノビのある直球とは、水平成分の傾き、ジャイロ成分が少なく、回転数の多いバックスピンのボールである。

●投球フォームが球質の多くを決めており、投手の体格や身体的特徴も影響すると考えられる。

サイドスローアンダースローの直球はホップ成分は少なくなり、ジャイロ成分が多くなる傾向にある。

●ノビのある直球に近づけることが有効かどうかは元の球質や他の球種との組み合わせなど様々な要素が関わるため一概には言えない。

【守備シフト〜極端なシフトはNPBでも一般化されるか〜】

 近年野球界においてもデータの活用が浸透しており、打者の打球傾向などを元に極端な守備シフトを敷く機会がMLBを中心に増加してきている。今回は守備シフトの中でも内野手が一二塁間もしくは二三塁間に3人の野手が守るシフトを以下では“守備シフト”として私見を示していく。(状況に応じた一般的な前進守備やゲッツーシフト、バントシフト等には触れず、打者の特徴に合わせたシフトのみを考察する)

 

<守備シフトの現状>

 MLBにおいて守備シフトを敷く割合は10年シーズンでは1.8%だったが、19年シーズンでは28.3%まで上昇したとされている。NPBでは、MLBと比較しシフトを敷く割合はまだまだ低いが、以前よりは目にする機会が増えており、DeNA日本ハムでは比較的積極的に用いられてきている。

 守備シフトは左打者に対して敷かれる割合が高く、右打者と比較し打率を下げる効果も高いという分析結果が示されている。打席の左右でシフトを敷かれる割合が異なる理由は大きく分けて二つ考えられる。一つは右打者の場合、三塁方向に内野手を寄せる際でも一塁手はベースカバーをする必要があり、極端に守備位置を変えることはできないため、その割合が低くなっていると考えられる。もう一つは、左打者のほうがプルヒッターの傾向の強い打者が多いことも推測され、シフトの割合を増やしていると考えられる。

 左打者がプルヒッターになりやすい要因としては、脚が速く内野安打も狙っていくような打者でない場合、反対方向(左方向)へのゴロを狙う必要がないことが挙げられる。右打者は進塁打で右方向へのゴロを最低限の仕事として求められる場面があるが、左打者は引っ張ったゴロが進塁打となるため、あえて反対方向のゴロを狙い打つ機会が少なく、結果的にプルヒッターの傾向が強くなりやすいのではないかと考える。また、投手へ対応していく中で、その傾向に右打者、左打者で差が出る可能性も推測する。対戦する投手は必然的に右投手が多く、対応する変化球もトップレベルに行き着くまでは少なくともスライダーやカーブのような利き手と逆方向に曲がる球種が多いと思われる。そのため、右打者は外に逃げていく球、左打者は内に入ってくる球に対応することが多くなる。個人的な推測であるが、これが左打者が右打者よりプルヒッターになりやすく(その傾向が強く)なる一因ではないかと考える。

 

 

<守備シフトの効果>

相手打者の打率への影響

 米国のある分析家によるとシフトによって下がる打率は3厘程度とも言われているようだ。プルヒッターの左打者に対してはシフトを敷かない場合と比較し、打率を下げるという一定の効果が得られているが、右打者ではその効果があると言える結果は得られていない。また、打率は三振やフライアウトといったゴロ以外の要素による影響も大きいため、現状守備シフトが明らかに相手打者の打率を下げる効果の高い作戦とは言いにくいだろう。ただ、データを元に打球が飛ぶ確率のより高い位置にポジショニングをとることは合理的であり、個人的には十分意味のある作戦であると捉えている。

 

相手打者の調子を崩す

 ゴロの打球をより高い確率でアウトにする効果以外に、打者がシフトを意識し空いたスペースを狙って打つことで、短期的には相手の出塁を許す形になるかもしれないが、その打者本来の打撃スタイルや調子を崩すきっかけになる効果も考えられる。MLBの打者はシフトと反対方向に狙い打ったり、セーフティーバントで出塁する場面も稀に見受けられるが、基本的にはシフトを敷かれても自身の打撃スタイルを崩さず投手と対戦している印象がある。これは長いシーズンを見据えてという面が大いにあると推測され、短期決戦などでは打者の対応も変わってくると考えられる。

 

<守備シフト導入に求められること>

チーム内での意思統一

 守備シフトをチームで採用するには、当然内野手だけでなくバッテリー、外野手も含め選手、首脳陣がその作戦に理解を示し、意思統一する必要がある。シフトは本来ヒットになるような打球を捌けるというメリットもあるが、定位置なら難なくアウトにできていたであろう打球がヒットになってしまうリスクもある。十分意思統一できていなければ投手をはじめ不満を持つ選手が出てきてしまい、数字で表せない面でのマイナス要素を生んでしまうかもしれない。

 

内野手の守備力

 守備シフトを大きく動かすことで、内野それぞれのポジションに求められる能力が増えることが考えられる。特に、二塁手三塁手は顕著である。二塁手は左方向に寄ることで一塁までの送球距離が延びるため、これまで以上に送球の強さや精度が求められるだろうし、三塁手も本来の遊撃手の定位置付近を守ることで、左右や後方へのフットワークが求められると考えられる。一塁手は他の3人の内野手が左方向に寄っている場合は打球処理に動く範囲が広がり、投手との連携の難易度も上がることが想定される。遊撃手も深い三遊間からの送球や二塁手の定位置前のような角度が急な位置からのランニングスロー、ショートスローが必要となる場面が想定される。

 このように、守備シフトを採用するには二塁手三塁手も遊撃手の位置で守備練習を行うなど各ポジションの選手が相応の準備を行い、シフトに対応できる守備力を身に付ける必要があると考える。

 

NPBで守備シフトは一般化されるか>

打者の傾向

 守備シフトを積極的に取り入れていくにあたって、それが適応となる打者がどの程度いるかという点は重要な要素となる。NPBの打者がMLBの打者と比較し、プルヒッターの割合が高いか低いかという点については、印象としてやや低いのではないかと予想する。その理由として、右打者に関しては打席で進塁打を意識する場面やポイントを手元に置いて三振を回避しようとする場面が日本の野球界では多いと推測されるためである。また、左打者に関しては脚力を活かして内野安打を視野に入れるタイプの打者が多いと推測される。これらの要因によって、NPBの打者はMLBの打者と比較しプルヒッターは少ないと考えられるが、NPBにおいても、守備シフトが適応となる機会は現状採用している数よりは多いと考えられ、MLB程ではないにしろ今後増えていくのではないかと予想する。

 

価値観、考え方

 データ上守備シフトが適応であるという結果が出たとしても、それを採用するかどうかはチーム全体や選手個人の価値観、考え方に左右される部分が大きいと推測される。定位置であればアウトにできる打球を確実に捌いてほしい投手や捕手、極端に守備位置を変えることを嫌がる内野手は確実に存在すると予想され、個人的にはその割合が日本の野球界で高いのではないかと考える。先述のように守備シフトを採用するにあたってはチーム内での意思統一が重要であるため、打率を下げるメリットが僅かであれば、心理的な面を含めて採用しないという選択をすることも多いのではないかと予想する。

 

<まとめ>

●守備シフトが敷かれる割合はMLBをはじめ増加してきており、NPBでも一部導入され始めている。

●守備シフトにより相手打者の打率を下げる効果は僅かと分析されており、実際にその影響は限定的なものであると言えそうである。

●守備シフトを導入するにあたっては、チーム内での意思統一や内野手にこれまで以上の守備力が求められる。

NPBで守備シフトが一般化されるかという点についてはMLBより限定的になると考えられるが、現在よりその数は増加すると予想する。

【セ・リーグのDH制導入について】

 巨人が提案したセ・リーグのDH制導入案について、現状導入は見送られる形となったが、プロ野球OBやファンなどから様々な意見が飛び交っている。

 私個人の意見として、セ・リーグにおいて全試合DH制に移行することは反対である。ただし、DH制自体のメリットは数多くあり、デメリットを上回ると考えているため、巨人から提案もあった部分的な導入(ホーム、ビジター各5カードの30試合または60試合)に関しては前向きな検討を期待している。結論としてどっちつかずな意見と言えばその通りだが、DH制に対する考えについてこの先で示していきたい。

 

<エンターテイメントとしてのプロ野球

 プロ野球は“観る人を楽しませる”という役割が大きい興行スポーツである。このことがアマチュア野球との違いであり、何かしら制度を変える、導入する際には考慮する必要がある部分であると感じる。

 個人的にはDH制の有無は両者ともそれぞれのおもしろさがあると感じており、現行のセ・パ各リーグで異なる形を採っていることは、両者を楽しむことができるという大きなメリットがあると考える。これがセ・リーグが完全にDH制を採用することに対しては反対の理由である。

 次にエンターテイメントとしてファン目線でのDH制の有無それぞれの具体的なメリットを自分なりにまとめる。

 

DH制あり

●出場できる野手が1人増える

●打撃に期待の薄い投手の打席がない

DH制なし

●代打や継投のタイミング等采配の妙を楽しみやすい

●打力のある投手の打席を見ることができる

 

 以上のようなものが主に挙げられ、両者の魅力を共存させるためにも制度を完全に統一しないほうが望ましいと考える。

 

<DH制がリーグの実力差に影響するか>

 近年ソフトバンク日本シリーズ連覇をはじめ、交流戦での戦績などからセ・パ両リーグ間での実力差を懸念する声が挙がっており、DH制の有無がその一因ではないかという意見もSNS上などで目にする。ここではそれについての私見を示していく。

 

野手の育成

 まず、単純にDH制があることでレギュラーポジションが1つ増える点、ポジションや守備力に関わらず、“打てば試合に出られる”という点が野手にとってメリットであり、ポジションの問題等によるベンチやファームでの飼い殺しを防ぐことにもなると考えられる。

 また、打撃が売りの選手だけでなく守備力が売りの選手の育成にもメリットがあると考える。例えば守備力の高い選手を打撃に目を瞑って起用していこうとした場合、明らかに打力の低い投手がいる打線と打撃に期待ができるDHの選手がいる打線では許容できる打力が異なってくると推測される。

 これらのことから、野手に関してはDH制があることでより長所を伸ばす育成がしやすく、その結果スケールの大きい選手が誕生しやすいといった可能性は考えられる。そのため、セ・リーグにおいても部分的にDH制を導入することは賛成である。

投手の育成

 投手はDH制により相手打線の打力が上がるため、抑えるためのハードルは多少高くなる。また、試合展開によって代打を送られるという作戦面での降板がないため、ピッチングの出来次第で投げるイニングを延ばしやすいといった面はあるかもしれない。ただし、これらはほとんど先発投手に限った話であり、投手の育成に直接的な影響はそこまで大きくないのではないかと考える。

ドラフト戦略等の編成

 野手に関しては、育成の部分でも示したようにDH制があることで長所を伸ばしやすいという面があると想定されるため、ドラフトにおいても一芸に秀でたタイプの選手を指名しやすいと考える。助っ人外国人についても同様に、打撃に魅了はあるが守備に難があるという選手も選択肢に入りやすくなるだろう。

投手の打撃

 DH制を採らない場合、当然投手も打席に立つことになる。個人的には打力の高さをより前面に出す投手がセ・リーグに出てきてもおもしろいと思う。そのためには各球団が投手の打撃をより評価する必要が出てくると思われるが、投手の打撃に見どころがあるかどうかは今後セ・リーグのDH制導入を検討するポイントになり得ると考える。

 

 DH制の有無がリーグの実力差を生むかという点については、DH制を採ったほうが野手の育成に関して多少有利な面があると考える。しかし、近年のパ・リーグ優勢の構図は三軍制を機能させ、資金力もあるソフトバンクをはじめ、パ・リーグの各球団がセ・リーグと比較し、時代のトレンドを素早く取り入れるなどチーム強化の努力で上回ったことが大きいのではないかと考える。

 

<アマチュア球界におけるDH制>

 アマチュア球界の中で社会人、大学生のカテゴリーではDH制が採用されている場合が多く、高校生以下の年代のカテゴリーでは採用されていない場合が多い。これはDH制が投手、野手とある程度選手としてのスタイルが確立されてきた段階で採用され始めるとも言える。

 私個人の意見としては、高校生以下の年代においてもDH制を採用を検討することが一般的となり、大会によって異なるような形でも良いと考える。理由は選手の出場機会が確保できることや肩肘に不安のある選手を守らせなくても良いなどといった障害予防の観点でメリットがあると考えるからである。また、投手が打力も兼ね備えているケースが多いはずだが、DH制はルール上採用したとしても使うかどうかは各チームの戦術に委ねられるため、融通が効くという点からももっと検討はされても良いと思う。

 

<まとめ>

●興行の面、一ファン目線からDH制の有無両方を楽しめる形が良い。

●DH制は野手の育成に多少有利であると考えられる。

セ・リーグにおいてもDH制の部分的な導入には期待。

●近年のパ・リーグ優勢の構図はDH制の有無が一因かもしれないが、主な要因はパ・リーグ各球団のチーム強化が奏功していると考える。

●高校生以下の年代のカテゴリーでも出場機会の確保や障害予防の観点から、DH制の採用をもっと検討しても良いと考える。